今週の説教要旨(2018.10.21)

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説教題「 幸い 」
マタイによる福音書5章1~12節

大岡昇平という作家は青山学院の中等部を卒業しキリスト教の感化を受けたといわれています。彼は1944年に招集を受けて、フィリピンに赴きます。その時の体験をもとに「野火」という小説を書きました。太平洋戦争末期、フィリピン戦線でのレイテ島において、 主人公の田村は肺病のために部隊を追われ、野戦病院からは食糧不足のために入院を拒否されます。彼は、熱帯の山野へと飢えの迷走を始めつつも、かつて通ったことのある教会を思いだします。しかし彼が目の当たりにする、自己の孤独、殺人、人肉食への欲求、そして同胞を狩って生き延びようとするかつての戦友達という現実は、ことごとく彼の望みを絶ち切ります。戦争の狂気の世界を描いているのです。しかし、戦争が終わったからといって、人間の狂気が無くなった方というとそうではないように思います。人を裏切り、傷つけ合う世界は、いまも私たちの目の前に繰り返されています。
イエス様の時代のガリラヤの人々も同じように、辛く、悲しい人生を送っていたのでした。ところが、イエス様はその人々を前にして、「悲しむ人々は、幸いである」、と宣言します。このことは私たちにとって驚くべき言葉です。「悲しむ人は不幸」というのが、私たちの常識だからです。だけれどもイエス様は、常識を覆して、約束し、保証をしてくださるというのです。そして、イエス様はその命をささげて約束を成就されました。新しい世界への道をひらいてくださったのです。その道をともに歩んでまいりましょう。